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2023.12.20
カントリーリスク&経済レポート

南欧:負債からの脱却には 観光業に加えて、人口危機の解決必須

Focus South Europe

新型コロナ-19対策による渡航制限で崩壊していた観光客数が、現在ヨー ロッパ全土でパンデミック以前の水準に戻りつつあり、地中海沿岸諸国はその恩恵を大いに受けている。10年前は経済の低迷に悩まされた南欧であったが、パンデミック後のヨーロッパ回復の主力となっている。2021年から23年にかけて、イタリア、スペイン、ギリシャ、ポルトガルは、 EUのGDP成長 率の4分の1から半分を一貫して占めている。

 

しかし今後は、気候変動とインフレが原因となり、観光 ブームが長く続くことはないだろう。同時に、観光産業への依存は生産性の低い労働力を生み出 すこととなり、深刻な人口減少危機に直面しているイタリアにはそのような余裕はない。人工知能、女性、移民が経済成長を支えるカギとなり、EUの財政ルールを遵守するには、これらすべてが必要とされる。

 

高まる観光業の役割

EUにおいても記録的な夏を記録した今年、観光客の宿泊施設での宿泊数は過去10年間で最高水準に達した(2023年上半期は1億9,800万泊、すなわち2019年上半期比+1,3%)。

 

インフレと旅行費用の上昇が消費者の財布に重くのしかかっているものの、家計は他の出費に比べ、旅行への支出意欲を維持している。このような観光客の流入だけでなく、特に交通機関の価格上昇の結果、観光事業の売上高は2023年第2四半期に2022年第2四半期比で平均30%、20192年比で 25%増加した。

 

観光業の回復は、観光業に依存度の高い、特に南欧諸国の成長回復力において中心的な役割を果 たすと期待される。観光部門はこの地域における国々のGDP10%以上を占め、労働集約的な部門であることから、雇用創出に大きく貢献している。一方、南欧の観光産業への依存は、欧州の他の地域と比較して生産性の面で大きな歪みをもたら している。また、観光関連事業の雇用形態は不安定な傾向にある。

 

長期的なリスク

今後の展望としては、観光ブームが欧州の経済成長を支え続けるかどうかは定かではない。世界規 模で複数のリスク(マクロ経済、金融、社会、政治)が存在し、インフレの世界では、南欧が新興国の新進デスティネーションに対してコスト競争力を維持するのは難しいだろう。また、気候変動によって 夏季には高温にさらされる南欧地域は、観光客を呼び込むには大きなマイナス要素を抱える。

 

一方、南欧の観光産業への依存は、欧州の他の地域と比較して生産性の面で大きな歪みをもたらしている。また、観光関連事業の雇用形態は不安定な傾向にある。

 

EU real GDP growth- Southern Europe contribution

イタリアの労働力不足は、EUの財政ルールが再び発動されれば悪化予測

人口減少が労働力不足を意味するイタリアにとって、生産性の問題は最も重要である。 2040年までに イタリアの生産年齢人口は11.7%減少すると予測されており、これに対してフランスは2.4%、スペインは 4.1%、ドイツは4.9%である。コファスの試算によれば、人口危機は早ければ2025年にもイタリアのGDP成 長率をほぼ半減させる可能性がある。EUの財政ルールが再び適用されるようになると、成長への障害 は債務削減への障害となるため、これは極めて重要である。したがって、人口減少は財政の持続可能 性に対するリスク要因となる。

 

イタリア人女性の可能性

このような問題を短期的に回避するための最も現実的な方法は、次に挙げることを強く加速させることで ある。1990年代から2000年代にかけてのスペインのように、イタリアで女性を労働力として採用することは 難しい。

 

イタリア女性の正規雇用率は55%で、スペインの70%に比べ低い。イタリアが2024年予算でEUに提 案された財政公約(EUの財政規則で暗黙の了解となっている)を達成しようとするならば、労働力におよそ100万人の女性を加え、生産性の伸びを年率0.5%に引き上げる必要がある。

 

A.I.と人口減少

イタリアが近隣諸国からの人口参加率と出生率の向上に成功したとしても、人口問題は数年先に 再燃することになるであろう。人口減少に対する長期的な解決策には、大規模な効率化が必要である。A.I.が十分に早く導入されれば、生産性を持続的に向上させる大きな可能性があり、おそらく人口減少の足を十分に補うことができるだろう。

 

1 出典:ユーロスタット

2 出典:ユーロスタット

3 ETCの最近の調査によると、欧州の旅行者が旅行先を選ぶ際に考慮する主な要素は依然として天候である一方、 回答者の14%が異常気 象 を 追加的な懸念事項として挙げており、これは2023年5月の調査より7%多い。

 

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