コファス アジア太平洋地域(以下APAC)支払動向調査2026によると、中国企業はアジア太平洋地域の他国企業よりも顧客に長い支払期間を設定しています。しかし、その一方で請求書の支払遅延は長期化しており、企業を取り巻く決済環境は一段と厳しさを増しています。
中国本土の企業が顧客に設定する平均支払期間は81日と、APAC地域平均を11日上回りました。しかし、こうした長めの支払条件にもかかわらず、86%の企業が支払遅延を経験しています。この割合は地域平均の91%をわずかに下回るものの、平均支払遅延期間は73日と地域平均より5日長く、債権回収の長期化が続いています。
また、支払遅延の発生状況はこの1年で悪化傾向を示しました。回答企業の35%が「支払遅延が以前より頻繁に発生している」と回答した一方、「改善した」と回答した企業は26%にとどまりました。さらに、33%の企業は支払遅延の深刻度が増したと回答しており、深刻度の低下を報告した企業(27%)を上回っています。こうした状況の背景には、貿易・関税政策を巡る不透明感の高まりに加え、低迷が続く国内需要や複数業界での激しい価格競争があります。さらに、調査終了後の4月以降は中東情勢の緊迫化に伴うコスト上昇圧力も加わり、今後の決済環境に対する懸念が一層強まっています。
今回の調査結果は、中国企業の運転資本に対する圧力が依然として強いことを示しています。また、企業の資金回収効率の低下というマクロ経済の動きとも整合しています。中国の工業企業に関する公式統計によると、2026年6月末時点の売掛金は前年同期比8.1%増加しました。平均回収期間も前年の70.9日から71.7日へと延びており、企業の現金回収に時間がかかる状況が続いています。
「競争の激化を受け、中国のサプライヤーは取引先の獲得や維持のために、より長い支払期間を提供しています。しかしその一方で、支払期限を過ぎた債権の回収には、APAC地域の同業他社よりも長い時間を要しています。その結果、運転資本への負担が増しており、支払遅延は発生頻度と深刻度の両面で悪化しています。現時点では支払遅延率や債務不履行率は比較的低い水準にとどまっていますが、真の課題はキャッシュコンバージョンサイクルの長期化にあります。」と、コファスの北アジア地域エコノミストであるJunyu Tanは述べています。「国内需要の低迷が続くなか、外部環境によるコスト上昇圧力も強まっています。こうした状況はサプライヤーのキャッシュフローをさらに圧迫する可能性があり、今後は現在のような長い支払期間を維持することが難しくなるかもしれません。」
低い債務不履行率と大きな損失リスク
中国では顧客の債務不履行は比較的少なく、過去1年間に少なくとも1件の債務不履行を経験した企業は16%でした。この割合はAPAC地域平均の45%を大幅に下回っており、中国企業では債務不履行の発生自体は限定的であることがわかります。一方で、債務不履行が発生した際の影響は小さくありません。債務不履行となった債権は、中国のサプライヤーの売掛金総額の11.2%を占めており、APAC地域平均の10%を上回っています。業種別では、木材業界と化学業界で特に影響が顕著です。両業界では売掛金の約20%が回収不能となり、貸倒れ処理されています。
業種によって異なる与信リスク
業種別に見ると、自動車業界のサプライヤーは比較的良好な状況にあります。その背景には、サプライヤーの資金繰りを支援する業界全体の取り組みがあります。なかでも、大手自動車メーカー17社が仕入先への支払期間を60日以内に維持する方針を打ち出したことが、大きな効果をもたらしたとみられます。こうした取り組みにより、自動車業界では支払遅延や債務不履行の発生が抑えられています。支払遅延を経験した企業の割合は29%、顧客の債務不履行を経験した企業は5%にとどまり、APAC地域の自動車業界平均(48%)を大幅に下回りました。一方で、業界内の競争は依然として激しく、利益率への圧力が解消されたわけではありません。また、こうした改善傾向は、手形や電子債権など現金以外の決済手段の利用拡大によって一部押し上げられている可能性もあります。こうした手段は資金繰りの実態を見えにくくする場合があり、潜在的なキャッシュフローリスクには引き続き注意が必要です。
対照的に、建設・不動産業界と農業・食品生産業界では、調査対象企業のすべてが支払遅延を経験しており、厳しい支払環境が続いています。 建設・不動産業界では、中国の不動産市場の低迷が長期化していることに加え、建設業界特有の複雑な支払プロセスが企業の資金繰りを圧迫する要因となっていると考えられます。
また、化学業界では調査対象業界の中で最も長い支払期間と支払遅延期間が確認されました。コファスはその背景として、最終需要の弱さ、生産能力の過剰、原材料価格の上昇を挙げています。特に、コスト増加分を販売価格へ転嫁しにくい中小企業では収益性への圧力が強まっています。このような環境下では、取引先がより長い与信期間を求める傾向が強まるほか、請求書の支払いまでに要する期間も長期化しやすくなります。一方、情報通信技術(ICT)業界と製薬業界では、支払期間と支払遅延期間の双方が比較的短く、他業界に比べて良好な支払環境が維持されていることが示されました。
取引関係の重視とリスク把握の遅れ
中国では、企業間の長期的な取引関係が依然として与信判断や債権管理に大きな影響を与えています。回答企業の63%は、長年の取引関係が支払遅延に対する許容度に影響していると回答しました。さらに83%は、取引先との関係維持を重視するあまり、財務面の警戒サインよりも関係性を優先する場合があるとしています。
こうした傾向は見過ごせません。実際に、顧客企業の財務状況や信用力の低下は、支払遅延を引き起こす主な要因の一つとなっています。重要な取引先に対して柔軟な対応を取ることは必要ですが、過度な配慮によって財務上の問題の兆候を見逃し、対応が後手に回るリスクもあります。
コファスの中国カントリー・マネージャー兼CEOのMark Qianは次のように述べています。
「支払サイクルの長期化は、多くの中国企業にとって依然として大きな負担となっています。需要動向や収益性、資金繰り環境は業種や企業によって大きく異なっており、その影響も一様ではありません。中国では長年にわたる取引関係がビジネスの重要な基盤となっています。しかし、そうした関係性に依存するだけでなく、適時かつ正確な財務情報の把握、明確な与信管理基準の設定、そして問題発生時の対応プロセスをあらかじめ定めておくことが重要です。重要なのは、与信を一律に厳格化することではなく、財務状況の悪化が見られる顧客を早期に把握し、事業成長を維持しながらキャッシュフローを適切に守ることです」
財務情報を活用した早期リスク対応
中国企業の72%は、顧客の支払リスクを評価する際に財務情報を一定程度以上活用していると回答しました。しかし、この割合はAPAC地域平均の78%を下回っています。また、37%の企業は依然として経験則や限定的なデータに基づいて判断しており、地域平均(36%)と同程度の水準となっています。
特に中国では、財務情報の入手や開示のタイミングの遅れが大きな課題となっています。回答企業の55%が利用可能な財務情報の主な制約として報告の遅れを挙げており、APAC地域平均の41%を大きく上回りました。また、情報開示の透明性不足や中小企業の財務報告の品質の低さについても、それぞれ43%の企業が懸念を示しています。
取引環境の不確実性が高まるなか、企業には過去の財務諸表だけではなく、より早い段階でリスクの兆候を捉えることが求められています。例えば、支払行動の変化、与信条件の見直し要請、取引上のトラブル、債権回収状況の変化などは、重要な早期警戒シグナルとなり得ます。こうした情報を信用リスク分析と組み合わせて活用することで、企業は取引先の状態変化をより早く把握し、与信判断の精度を高めるとともに、キャッシュフローの安定化につなげることができます。
コファス アジア太平洋地域支払動向調査2026について
コファスは2003年より、中国企業の決済動向に関する年次調査を実施しています。また、2011年には調査対象をアジア太平洋地域へ拡大し、企業の支払行動や信用リスクの変化を継続的に分析しています。第16回となるコファス アジア太平洋地域支払動向調査は、2026年3月から4月にかけて実施されました。今回の調査では、アジア太平洋地域の10市場において複数業界の財務担当者2,800人から回答を収集しており、このうち522人が中国本土の企業からの回答者です。調査では、支払行動の変化や資金繰りへの圧力、顧客の債務不履行、早期警戒シグナルなどを分析しています。また、決済リスクへの対応力を高めるためのガバナンス体制、リスク分析手法、エスカレーションプロセス、顧客管理の取り組みについても評価しています。

