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2016.07.14
カントリーリスク&経済レポート

アラブ首長国連邦(UAE):成長減速の新たな時代

アラブ首長国連邦(UAE):成長減速の新たな時代
徹底した経済多角化によっても石油価格下落の影響は完全には解消されず、小売業と観光業に課題
  • 経済多角化、政情安定そして強靱な金融システムにより、石油価格の下落の影響は緩和
  • 2015年には、炭化水素以外のセクターの対GDP比は75%に上昇
  • 2016年には家計支出と観光客支出総額の見通しが再上昇
  • 小売セクターは外国直接投資が好調、しかし資金調達と飽和が問題
  • ロシアルーブルとユーロの下落が観光業に影響
  • 貿易額の約4分の1は中国とインドが占める

 

UAEは湾岸諸国の中では最も経済多角化が進んでいる

最新の「パノラマ」(コファスの経済レポート)によると、UAE経済のバックボーンは今でも炭化水素セクターであるが、それ以外のセクターの対GDP比が大きく、石油価格下落が経済成長に及ぼす影響が軽減されている。UAEは、ここ数十年間、インフラ、運輸、金融サービス、貿易、建設に投資し、経済の多角化を進めてきた。この多角化は、石油価格の下落により、2014年中盤からはますます重要性が増している。炭化水素以外のセクターの対GDP比は、2000年代中盤には約65%であったのが、2015年には約75%に上昇した。

 

コファスのMENAエコノミストであり、レポートの執筆者であるSeltem Iyigunは「UAEは湾岸諸国で最も経済多角化が進んでいる」と述べている。また「UAEは経済の多角化が比較的進んでおり、石油価格下落に耐える力をつけている。多角化の努力のおかげで、UAEは金融の強固なバッファーを築き、政府による不動産、建設、貿易、小売、観光など、炭化水素以外のセクターの持続的支援が可能となっている。」と語る。

 

経済多角化だけでなく、中東地域のセーフ・ヘイブン(安全な避難場所)であること、安定した政情、強靱な金融システムなども、石油価格下落の影響緩和に役立ってきた。「海外投資家にとって、UAEは今も非常に有望な経済圏です。良好な事業環境は、生産性の高さ、良質のインフラ、国際市場との強い結び付き、活発な民間企業などの恩恵を受けています」とSeltem Iyigunは加えている。

 

2015年末には、石油価格下落により投資家センチメントが冷え込んだものの、家計消費は引き続き堅調で、流動性が高く、金利は低い。また、観光も引き続き好調である。民間部門への貸付は、2016年2月には前年度比8.5%増となった。経済の多角化により、石油セクター減速による雇用水準への影響が軽減され、この展望を裏付けている。

 

小売業と観光業は引き続き国の主要産業であるが、いくつか課題もある。

 

資金調達と飽和の問題に直面する小売業

 

ドバイ商工会議所によれば、2014年の小売産業の売上げは1730億ディルハムで、2013年から6%以上伸びている。2016年の家計支出の総額は2671億ディルハムに達すると予想され、これは2015年の予想額である2418億ディルハムを上回っている。この成長は、富裕層、一時滞在者、観光客の可処分所得の高さと消費層の厚さによって支えられている。

 

Iyigunはこう述べている。「UAEへの海外直接投資総額の23%は、小売セクターに投資されています。小売セクターは飽和状態ですが、国の優れたインフラ、先進的な環境・大規模開発プロジェクトに後押しされ、まだ投資機会があります

 

しかし、賃料の上昇により小売業の利益率が圧迫されており、また、石油価格下落の持続により長期的には小売業への安定した投資が見込めなくなる可能性がある。また、石油価格下落を受けて銀行システムへの政府預金が減ったため、銀行は流動性低下とドル不足の問題を抱えている。

 

 

観光業は石油価格下落とロシアルーブル・ユーロ下落により圧迫

UAEの観光客支出額の総計は、2014年には235億米ドルで、2015年は260億米ドルに達した[1]。 これは、サービス輸出全体の60%、商品・サービスを含めた全輸出額の5.4%である。2016年には外国人観光客数が1500万人に達すると予測され、観光客支出も3.3%増が見込まれる。中級ホテルの成長を支援するため、政府は、2013年から2017年までに竣工が開始される物件については10%の地方税を免除することとした(当初は建設許可の日から4年間)。観光業界への投資は、2016年には282億ディルハム(2.8%増)に達する見込みである。

 

しかし、課題はまだ残っている。2016年1月と2月のドバイのホテル客室稼働率は84%であり、前年とほぼ横ばいであった。競争の激化とドル高により、同時期の平均宿泊料金は1泊272米ドルから237米ドルに下がった。

 

さらに、石油価格下落とロシアルーブル・ユーロの対ドルレート下落により、ロシアとヨーロッパの観光客にとってUAEへの旅行は高くつくようになった。これが、ホテル業界の業績を圧迫している。

 

不動産及び建設: 前向きな見通し

不動産セクターは、UAE政府の経済多角化戦略の柱の一つである。ドバイでは、2020年万国博覧会に向けた準備作業が、建設業界の成長活性剤となっている。「石油価格の下落が続いても、アブダビとドバイはインフラプロジェクト投資を続行し、このエリアに民間デベロッパーを呼び込むことができるでしょう」とSeltem Iyigunは述べる。

 

建設セクターの見通しは引き続きポジティブだが、広い範囲での景気減速の影響がのしかかっている。UAEの住宅市場は、近年と比べて低迷を続けている。2015年の始めには、デベロッパーはドバイの住居物件引渡しを25,000件と見込んでいたが、実際には7,800件にとどまった。

 

 

貿易セクター: アフリカとの投資関係の強化

 

莫大なインフラ投資により近代的な港や空港が建設され、湾岸協力理事会(GCC)の加盟国の中で最も魅力のある玄関口の一つとなっている。ドバイの港だけで、GCC全体の貿易の55%を取り扱っている。

 

他のGCC諸国やアフリカとの貿易拡大も、UAEの貿易セクターの成長を後押ししている。湾岸諸国は、建設、インフラ、サービスセクターへの投資を通じて経済を多角化させ、石油とガスへの依存からの脱却を図っている。IMFのデータによると、UAEとアフリカ・中東地域との貿易額は、2010年には567億米ドルであったのが、2014年には828億米ドルに伸びている。アフリカとUAEは投資の面でも関係を強化している。2014年には、UAE(特にドバイ)が、アフリカのグリーンフィールド(新規開発)海外直接投資プロジェクトの資本支出総額の6%を占めた。UAEのアジアでの主な貿易相手国はインド、中国、日本である。中国とインドだけで、UAEの貿易総額の4分の1近くを占めている。

[1] 2015 世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)のベンチマークレポートによる。

 

Download the publication
  • Economic diversifica-tion: a buffer against lower energy prices
  • GCC currency peg: how sustainable?
  • Sector barometer
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