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2015.01.23
カントリーリスク&経済レポート

中東・北アフリカ地域:「アラブの春」以降の進捗

中東・北アフリカ地域:「アラブの春」以降の進捗
  • 中東・北アフリカ地域では経済活動が勢いを増す。
  • GCC(湾岸協力会議)諸国における力強い成長の勢いは続き、石油輸入国の景気回復も軌道に乗った。
  • 石油輸出国の経済多角化は成功しているが、財政・輸出収入という点では依然として炭化水素資源部門に大きく依存している。
  • 石油輸入国は地政学的な緊張のリスク増大に直面している。
  • モロッコ、チュニジアは、欧州の景気回復、政治の安定性の高さによる恩恵を受けている。

 

 

中東・北アフリカ地域では、政治的・社会的混乱の時期を経て、経済活動が力強さを増している。グローバルな景気回復と、域内の一部の国の間で政治的な合意が成立する兆しが見られることを背景に、成長率は2014年が2.6%、2015年には3.2%に加速すると予想されている。とはいえ、成長パフォーマンスは引き続き2000〜2010年の平均5.4%を下回る水準にとどまるだろう。

 

中東・北アフリカ地域の成長パフォーマンス

MENA_GDP_graph_JP

 

 

 

GCC諸国の成長率は2014年が4.2%、2015年が4.1%となる見込みで、炭化水素資源部門以外の活動が堅調で大きな財政黒字を抱えていることを背景に、この地域の経済成長の牽引役となっている。多角化政策が進められたことで、GCC地域での非炭化水素資源部門に対する支援は進展した。GCC諸国全体では、炭化水素資源部門がGDPに占める比率は2000年の41%から2014年には33%まで低下した。またこれらの諸国は、政府系ファンドが保有する膨大な資産や対外黒字など、しっかりした財政ファンダメンタルズによる恩恵も受けている。とはいえ、原油価格の急激な低下は、2015年の成長パフォーマンス及び財政収支という点では負担になる可能性がある。

 

石油輸入国(エジプト、ヨルダン、レバノン、モロッコ、チュニジア)にとっては、観光部門、投資家の信頼感及び欧州諸国の景気回復に支えられた輸出の回復といった要素が、成長パフォーマンスにポジティブに作用すると予想されている。この他、石油輸入国の多くは、社会的混乱の余波が残るなか、経済活動を支えるための景気刺激策を発表している。石油輸入国における成長率は、2014年が2.5%、2015年が3.4%と予想されている。一方で、これらの国々は高い失業率、財政赤字・経常赤字に悩んでおり、公的債務の水準も依然として高い。とはいえ、経済活動の回復とインセンティブ改革を背景として、こうした状況は改善すると予想されている。

 

予想される実質GDP成長率(%)

Real GDP growth forecast_JP

 

 

 

一方、イラク、リビアといった一部の国々では、地域的な混乱が経済パフォーマンスに重くのしかかってくる可能性がある。イラクとリビアの2014年の経済成長率は、それぞれマイナス2.5%、マイナス19.8%と予想されている。

 

「石油輸出国と石油輸入国の格差は依然として残っており、どちらのグループでも、実質成長率は2000〜2010年の平均を下回る水準にとどまるでしょう。とはいえ、GCC諸国の大半は地政学的な緊張から距離を置くことができており、それによって、外資の誘致を続け、しっかりとした成長率を記録することが可能となりました。これらの諸国では経済改革のために、非石油部門への巨額の投資を続けています。これによって、エネルギー価格の急落に対する脆弱性も低下しています。したがって、これら諸国におけるビジネス環境に対するコファスの評価は改善されています。とはいえ、将来的な財政収支の悪化、官僚主義の是正、透明性の改善に関しては、取り組むべき課題がなお残っています。

石油輸入国では、社会的・政治的混乱が石油輸出国に比べて強く影響しました。これらの諸国は、依然として、政治不安、高い失業率と公的債務、経常赤字、財政不均衡に悩んでいます。とはいえこれらの諸国では、財政のパフォーマンス、労働市場の条件、ビジネス環境の改善に向けた構造改革という点で一定の前進が見られます。チュニジアとモロッコは、欧州の景気回復のおかげで経済パフォーマンスが改善するものと予想されます」(Seltem IYIGUN、コファス中東・北アフリカ地域担当エコノミスト)

 

 

 

炭化水素資源部門:この地域の強みも価格変動に直面。域内の緊張も重くのしかかる

 

GCC諸国は原油生産に基礎を置く地域であり、世界最大の確認埋蔵量を抱えている。2013年末の時点で、クウェート、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦の4カ国で、石油輸出国機構(OPEC)の原油確認埋蔵量の41%近くを占めている。GCC諸国では、この部門が輸出収入・財政収入の大きな源泉となっている。また、炭化水素資源による収入は、他産業の振興のための原資ともなっている。石油価格の下落は、財政収入・輸出収入の減少をもたらす可能性がある。また一部のプロジェクトに対する投資家の信頼感という点でも、企業収益率の圧縮を通じてマイナスに働く可能性があり、プロジェクトの遅れや中止につながるかもしれない。財政上の収支均衡価格の上昇と合わせて、増大する社会支出・投資支出を支えきれなくなる可能性がある。設備投資の減少が、成長パフォーマンスにとって足枷となるおそれがある。

 

 

繊維部門:不安定ののち回復

 

繊維・衣料部門は北アフリカ諸国の伝統産業の一つであり、雇用・工業生産の重要な柱となっている。モロッコでは繊維産業が工業部門における最大の雇用者(40%)となっており、GDPの10%、輸出の20%を占めている。チュニジアでは繊維・衣料部門が製造業のなかで二番目に大きい輸出産業となっており、同国の輸出総額の19%を占めている。2014年第1四半期には、総雇用の7%を提供していた。製品輸出先の欧州への集中、顧客の交渉力が生産者を上回っていること、限定的な資金調達、政治不安がこの部門にとっての主要なリスクとなっている。

 

 

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目次
  • アラブの春以降の進捗は?
  • 主要セクターの概要
  • その他のセクター
  •  Belhassen Gherab and Haitham ALKHAZALEHのインタビュー

 

 

 

 

 

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