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2022.05.26
カントリーリスク&経済レポート

欧州での戦争が世界的なセクターの動向に与える中長期的な波及効果:回復力のあるセクターはあるのか?

欧州での戦争が世界的なセクターの動向に与える中長期的な波及効果:回復力のあるセクターはあるのか?

サプライチェーンや地理的な関係によって企業の立ち位置に多かれ少なかれ違いがあれど、コファスが調査した13部門[1]全てが、中長期的にウクライナでの戦争の影響を直接または間接的に受け続けるであろうという事が判明した。ほとんどの部門が、戦争によって悪化した商品価格の高騰とサプライチェーンの問題の影響を受けると予想される。これは、EU[2]委員会が先週発表したロシアの石油禁輸措置の波及効果によって、原油高が加速し続ける可能性が高い場合、より顕著になるだろう。穀物(大規模な穀物生産国であるウクライナ、ロシア、ベラルーシ)に関しても同様である。

半導体供給の途絶が続き、上海港のロックダウンが示すように、新型コロナウィルスの感染拡大の影響がまだ波及していることから、戦争が長期化すればするほど、需要ショックが顕在化し、地球環境がさらに悪化する可能性が高くなる。したがって、最も影響を受ける分野は、石油化学[3]、運輸、自動車、製紙、繊維、衣料などであり、最も市況かつエネルギー集約的な産業であると予想される。

今後、回復力が期待される部門は、メディア(ICT[4]セグメント)、特殊化学品、医薬品部門である。

 

インフレ圧力とエネルギー・ショックは、主に市況かつエネルギー集約的な産業に影響を与え、地域間で大きな格差が生じる

すべての産業部門に懸念があるが、石油化学、輸送、製紙、繊維・衣料などの市況かつエネルギー集約的な産業が最も影響を受けると考えられる。それらは一般的に、技術革新、環境規制の進化、消費者の嗜好の進化によって数年間困難に直面してきた市況産業である。例えば、製紙セクターは、公共での利用において世界的にデジタル化が進行しているという課題に直面している。

危機前にすでに困難な状況にあったセクターも、今回の新たなショックの影響を強く受ける可能性が高い。世界の繊維・衣類・自動車部門がこのことをよく表している。

長期的には、小売部門がどの程度の影響を受けるかは未定な状況にある。この新たな戦争の状況は、消費者の不信感を増大させ、不確実性を煽ってくるだろう。しかし、一部の政府、特に先進国で実施されている食料配給券や、欧州のエネルギー価格補助金など、いくつかの緩衝措置が実現すれば、小売部門への影響は比較的抑えられる可能性がある。

 

運輸部門は全体的にエネルギー集約型であり、石油価格の高騰によって打撃を受ける可能性が高いが、この新たなショックに直面するのは金融状況が異なるため、サブセクター間[5]でショックの影響に格差が生じると予想される。例えば、2022年第一四半期には、海上輸送の利益は売上高の28%であったが、航空輸送は売上高の11%の損失を記録した。

また、大半の業種では、川上か川下かによって、サプライチェーン上での影響や企業の位置付けに大きな格差が生じることが予想される。戦争の影響を見るとき、同じ部門内の地理的、構成的、業務上の相違が要素もまた重要である。

 

 

世界の農業食品部門も、社会政治問題を伴うリスクを抱えており、最も影響を受ける分野の1つであり続ける可能性が高い

農業食品部門の重要性を考えると、食料と投入材 (特に肥料) の価格高によって直面する課題の影響は、世界の食料安全保障を脅かし、政治的不安定を引き起こす可能性があるため、極めて重要である。エネルギー価格の上昇は,農業作物のための投入財を増加させ、それにより農家の利益収入を低下させる。また一方で, 農業食品部門は,干ばつ(アフリカの角、インドなど)や世界中の様々な地域で発生している年初からの猛暑による大規模火災 (米国ニューメキシコ州など) のなど,生物学的リスクや気候条件の変動などのいくつかの構造的要因の影響に対して既に脆弱である。

 

大きな部門変革と消費者の傾向の変化が予想される

長期的には、消費者と企業の両方の傾向(省エネ、小麦粉から代替品への移行等)が徐々に変化することが予想される。また、サプライチェーンの構造の変化も予想されるだろう。後者は間違いなく世界的なサプライチェーンに影響を与えるだろう。例えば、欧州と中国の間の重要な鉄道貨物ルートは現在、中央回廊を経由してロシア国外に展開している。コロナ禍が世界のセクターに与えた影響のように、この新しいショックはサプライチェーンの構造と消費者の傾向、その双方に大きな変化をもたらすきっかけとして作用する可能性が高い。

 

一部のセクターは回復力を維持する可能性が高い

景気循環との関わりよりも、重要な研究開発を必要とする高度で革新的なセクターは、この再びの危機に対して、最も強固な部門であり続けるだろう。

世界の多くの地域では、新型コロナウィルスに関連した健康上の危機は幾分和らいだが、それは決して終息したというわけではない。したがって、医薬品部門は引き続き堅調な業績を維持する必要がある。

コファスは、さまざまなICT部門の中で、メディア部門が最も回復力があると予想している。これらのサービスを使用する際に必要な投資と機器は、危機以前から必要なものであったため、ユーザーはサプライチェーンの混乱の影響を受けないのである。さらに、これらのサービスはリモート作業で利用され、引き続き必要なものである。このように、例えば貨物輸送活動と違って、それらは物理的および地理的な障壁によって制限されることがない。

 

特殊化学品、特に美容、香料、香味市場で進化を遂げている企業は、非常に循環の激しい自動車部門の取引先である塗料や染料などの他の産業と比べて回復力があると予想される。

これら3つの産業(メディア、特殊化学品、医薬品)に共通するのは、経済に対する反循環的な産業であることで、それらの産業の製品や市場での専門的、支配的な地位が世界の特定地域に集中していることなど、さまざまな要因が複合していることである。さらに、ハイテクで革新的な産業活動があり、新規参入者の参入には高い壁がある。

 

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[1] コファスのセクターリスク評価に関する調査は13部門を対象にして、農業食品、自動車、化学、建設、エネルギー、情報通信技術(ICT)、金属、製紙、医薬品、小売、繊維・衣料、運送、木材を含めている、

[2] ロシアに対する新たな制裁の一環として、この制裁は年末に向けて段階的に実施される予定である

[3] コファスのセクターリスク評価に関する調査において、化学は3つのサブセクトが含まれている:石油化学、特殊化学、肥料

[4] コファスのセクターリスク評価に関する調査において、ICTは複数のサブセクトが含まれている:通信技術、電子機器、メディア、そしてコンピュータ、ソフトウェア、IT機器で構成されるサブセグメント

[5] コファスのセクターリスク評価に関する調査において、運送は鉄道、海運、道路および航空輸送が含まれている:石油化学、特殊化学、肥料

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