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2021.09.28
カントリーリスク&経済レポート

世界の小売セクターは通常状態へ帰還?

世界の小売セクターは通常状態へ帰還?

ソーシャルディスタンスや店舗の休業に伴い、小売セクターの事業活動はコロナ禍の影響を受けている。しかし、コロナ禍が小売セクターに及ぼしている影響は、国とセグメントによって大きく異なる。2020年においては、小売売上が減少した国もあったものの、影響がなかった国もあり、また、北欧諸国ではプラスに働いたところさえもあった。さらに、影響はセグメントによっても異なり、衣料品店が最も大きな影響を受けている。

全体的に、新型コロナウイルスが小売セクターに与える影響は限定的で、最も影響のあったセグメントでさえ、状況が収束に向かえばすぐに回復する見込みだろう。しかし、海上輸送の混乱によって、供給不足と物価の高騰が引き起こされ、2021年内に小売セクターが完全に回復するにあたっての障害となる可能性がある。

 

「小売セクターはコロナ禍の影響(店舗の休業やオンラインショッピングの台頭など)を受けましたが、輸送セクターの混乱と一次産品価格の高騰がなければ、迅速かつ完全な回復を見せていただろうと考えられます。輸送費用と一次産品価格の上昇、および配送の遅延がサプライチェーン全体で価格を押し上げ、商品不足を引き起こしています。これは小売セクターにとって深刻な懸念であり、完全な回復を遅らせるかもしれません」 とコファスのエコノミスト、アーワン・マデレナットはコメントしている。

国とセグメントによって影響はさまざま

2020年の1回目のロックダウンで多くの国が小売売上の減少を経験したが、2020年通期の売上状況は明暗が分かれている。コファスは3つのキーポイントに注目した。

  • コロナ禍からマイナスの影響を受けた国もあったが、多くの場合、影響は予想よりも軽微であった。ほとんどの国で2020年第2四半期の小売売上が減少したが、その後は回復に転じ、続けて実施されたロックダウンに伴う影響も全般的に小さくなっていった。
  • 上記の理由から、小売セクターに大きな影響が生じたとはいい切れない国もある。
  • 驚くことに、コロナ禍から恩恵を受けた国(特に北欧)がある。北欧諸国では通常夏季の間、入国者よりも出国者の方が多く、「観光赤字」に苦しんでいる。ところが、昨年は渡航制限により、北欧諸国における消費者が普段よりも多かったことが主な理由である。

状況は、小売の市場セグメントによっても異なるようである。コロナ禍の影響が最も深刻な分野に繊維・アパレル関連の小売業が挙げられる。衣料品店は必要不可欠ではないとみなされ、多くの場合、ロックダウン中に休業を余儀なくされた。誰もが外出自粛を迫られ、衣服を買う動機も少なくなったため、衣料品店の売上は昨年、EU27か国で 24%減少し、米国では 29%減った。しかし、これらの売上は、状況が収束に向かえばすぐに改善する見込みである。衣料品店への影響は、テレワークに関する企業の方針とも直接の結びつきがある。コロナ禍の収束後もテレワークが重視され続ければ、売上が完全に回復することはないだろう。

これとは対照的に、2020年に最も成長した分野に食料品店(ユーロ圏で +4%、米国で +11%)がある。2020年初旬に食料の買いだめが起き、レストランも休業となったためである。これは一時的な増加とみられ、全体的な状況が改善してレストランの営業が再開されれば、継続することはなさそうだ。

通常は他のセクターより経済危機に強いが、コロナ禍では全世界のラグジュアリーセクターが深刻な課題に直面している。これは特に、店舗の休業と渡航制限によるためである。2018年、世界的にラグジュアリーの購入者層のうち 46%は中国の消費者であった。商品の約4分の3は中国国外で生産されている。さらに、ラグジュアリーの主な目的に社会的認知があることから、ソーシャルディスタンスによってラグジュアリー商品を購入する必要性が低くなっている面もあるかもしれない。2020年上半期の収益がLVMHやケリング、エルメスのそれぞれ 27%、 30%、 25%の落ち込みとなったが、2021年上半期に企業は、すでに回復をみせており、収益が2019年上半期との比較でも増加している。しかし、上記の数字は市場全体の傾向ではなく、より小さな企業にとって回復はまだ難しい。消費者は有名ブランドに惹きつけられるからだ。

 

eコマースの長期的成長への影響は限定的

ソーシャルディスタンスにより、消費者がオンラインショッピングを利用する頻度が増えている。リアル店舗からeコマースに利用者が流れる傾向は今に始まったことではないが、2020年の成長は例年よりもはるかに著しく、アマゾンのようなeコマース企業や、ウォルマートなど、オンライン販売のインフラに投資してきた「従来型」小売企業が恩恵を受けた。2020年、アマゾンの売上高は 38%増加し、3,860億米ドルとなった。ウォルマートは、2021年度の売上総額が 6.7%増加し、同期間のeコマース売上は 79%増加した。ユーロ圏では、2020年のオンライン販売量が平均で2019年よりも 23%多かった。

 

しかし、留意すべきなのは、小売セクターにおけるeコマースのシェアが長年上がり続けていることである。つまり、eコマースのシェアは2019年から拡大しているが、この増加がすべてコロナ禍によって生じたとは必ずしも言えない。

2019年と2020年におけるeコマースのシェアを見ると、例えばEU27か国では、2019年は0.6パーセンテージポイント(pp)の増加、2020年は2.4ppの増加であった。中国では2019年に+1.6pp、2020年は+4.8ppで、米国では2019年が+1.3pp、2020年が+2.7ppであった。

従って、2020年はオンライン販売の拡大ペースが加速している。しかし、これは最初のロックダウンによる部分もあり、EU27か国と米国、カナダではオンライン小売売上がこの時点でピークに達している。その後、eコマースのシェアは落ち込み、ヨーロッパよりも米国とカナダで大きく低下した。さらに、米国の小売セクターにおけるオンライン販売のシェアは、2020年4月の 19%で頭打ちとなり、12月には 15%、2021年6月には 14%にまで減少した。2019年の平均は 13%となっている。従って、オンラインショッピングへの段階的なシフトは、おそらく今後も継続するだろうが、たとえパンデミックが加速化につながったとしても、eコマースのシェアへの影響は、長期的には限定的となるとみられる。

 

インフレ、輸送の混乱:小売セクターに不安は残る

輸送コストの増加は、消費者価格を押し上げる見込みである。製造者や小売業者が、増加した輸送コストの一部を商品価格に上乗せしているから見られている。そのため、小売セクターは輸送の混乱と一次産品の価格上昇による影響を受ける可能性がある。ただし、その影響は一様ではないかもしれない。需要の変動が大きい衣料品店は他の小売業よりも苦しむ可能性があるが、食料品店や電気店などはより強い耐性を見せるかもしれない。とはいえ、インフレが消費者センチメントの足を引っ張る恐れもある。例えば米国では、ミシガン大学の発表する消費者態度指数が、2021年6月から7月にかけて85.5から80.8に低下した。2021年6月はインフレ率が前年比 5.4%上昇しており、2008年以来最高値となった。

 

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