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2016.11.09
カントリーリスク&経済レポート

アベノミクス第一の矢:なぜ上手くいかないのか?

アベノミクス第一の矢:なぜ上手くいかないのか?

2013年初めにアベノミクスが発表されて以後、日本銀行は積極的な金融緩和政策を続けてきた。「アベノミクスの第一の矢」として知られる措置だ。その一環として、2013年4月には「量的・質的金融緩和(QQE)」、2016年1月には「マイナス金利を伴うQQE」、そして直近では2016年9月に「イールドカーブ・コントロールを伴うQQE」が導入された。約3年半の間に第一の矢の効果は薄れていき、特に日本経済の輸出と円相場の面で苦しい状況に立たされている。

第一の矢が成功を収めている間に進んだ円安は、なぜ日本の輸出量拡大を後押しできなかったのか?

 

輸出に及ぼす円安の影響が限定的なものにとどまった原因は、世界経済成長が低迷したという外的要因で容易に説明がつく。この世界経済の低迷は、日本の輸出部門を含む世界の貿易活動に重くのしかかっている。より構造的な理由としては、円相場の変動に関係なく、外国通貨でも国内価格と同等とされる価格を保持しようとする日本の輸出業者の「市場別価格設定」行動が挙げられる。これが、日本の輸出に対する需要喚起を制限する要因となっている。

 

円相場の変動で最も大きな影響を被る産業は?

 

この市場別価格設定行動により、日本のメーカーの営業利益は円相場の変動をそのままなぞる形で推移する。したがって、日銀の積極的金融刺激策は日本のメーカーを元気づけたはずである。

 

輸出に占める請求通貨の割合もまた、円相場の変動が日本のメーカーの採算性に及ぼす影響を決定づける重要な要素の一つとなりうる。輸出品目が多岐にわたっていない産業では、円での請求の割合が低く、円相場の変動をより受けやすくなる。したがってこれらの産業の企業では、円高の時期は苦しい状況に置かれるが、円安になると採算性がぐんと高まる。

 

これらの論理的・経験的判断を組み合わせた結果、円高の影響を被りやすいのは繊維と化学産業であり、逆に一般機器は比較的影響を受けにくい。

 

拡張的通貨政策の強化が勢いを失っていくように見える中、次に来るのは?

 

理論上は、拡張的金融政策の最中にマネーサプライが増加すれば、通貨の相場は下落する。しかし、2016年の市場の混乱を背景に、日本円の安全な避難先としての性質によって、政府の拡張的金融政策にもかかわらず、円は比較的高値で推移した。すべての条件が同じならば、さらなる金融刺激策の限界効果は薄れるものと思われる。

 

「最新のデータを見る限り、日本はまたしても流動性の罠にはまっているように思われる。さらに強い警戒が必要なのが、デフレが弱まるリスクの兆しがほとんど見えないことだ。金融政策・財政政策ともにもはやできることは限られてくるため、生産性の向上と賃金上昇を後押しするためには、日本政府は大胆な規制緩和と構造改革を行う必要がある。さもなければ、日本の低成長とデフレの状況は今後も続くだろう」と、コファスのアジア太平洋地域担当エコノミストのジャキット・ウォンは言う。

 

 

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  • I. Why did the yen depreciation, which occurred during the early success of the first arrow, not boost Japan’s merchandise exports?
  • II. Why has the more expansionary monetary policy introduced by the BOJ been losing steam on driving down the yen since 2016?
  • Summary of Japan’s merchandise exports
  • Summary of the Bank of Japan’s major policy changes (2013 – September 2016)

 

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